「嫌いなら無視すればいいのに」 それでも“アンチ”が悪口を言い続ける本当の理由

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「嫌いなら無視すればいいのに」 それでも“アンチ”が悪口を言い続ける本当の理由

アンチ活動と推し活動の対比

現代社会では、好きな対象を熱心に応援する「推し文化」が盛り上がりを見せている一方で、嫌悪感や反感をあえて表明し、批判的な声を上げる「アンチ文化」もまた存在感を増しています。SNSの普及によって誰もが容易に意見を発信できるようになり、アンチ活動は一種の「表現の場」として広がりつつあります。とはいえ、「嫌いなら見なければいいのに」というシンプルな考えが頭をよぎる人も少なくないでしょう。

では、なぜ一部の人々は自分が嫌う対象にあえて注目し、悪口を言い続けるのでしょうか。愛知淑徳大学の久保教授が示す「プロジェクション」理論や、アンチ行動に含まれる「シャーデンフロイデ」という心理的な快楽に注目することで、その答えが見えてきます。この記事では、アンチの背後にある心理メカニズムに迫り、読者自身の感情や行動に気づきをもたらすための道筋を探ります。

アンチ心理の基礎「プロジェクション」とは

愛知淑徳大学の心理学者である久保教授は、「プロジェクション」(投影)という心理的なメカニズムがアンチ活動に強く関わっていると指摘します。プロジェクションとは、個人が自身の感情や価値観を他者に投影し、それを現実の出来事として認識してしまう心の働きです。特にアンチ行動においては、自分の中にある「嫌悪」や「不満」といった感情を、他者の行動や発言に反映させ、それを非難する行動に出るケースが多いとされています。

ここで久保教授が指摘する「異投射」という概念についても触れておきましょう。異投射とは、実際には存在しない「悪い部分」や「気に障る部分」を勝手に相手に見出してしまい、それが真実であるかのように振る舞ってしまうことを指します。これにより、特定の芸能人や有名人が何気なく着ている服や発言が、アンチにとっては「許せないもの」に変わるのです。例えば、「彼があんな派手な服を着ているのは傲慢だ」という認識は、実際にはアンチの自己投影に過ぎない場合もあるのです。

アンチの快楽「シャーデンフロイデ」の存在

次に取り上げるのは「シャーデンフロイデ」という心理現象です。これは他人の不幸や失敗に対して快感を覚える感情で、「他人の不幸は蜜の味」という言葉が示す通り、ほとんどの人が一度は経験する感情と言えるでしょう。アンチ行動においてもこのシャーデンフロイデが密接に関わっており、嫌悪の対象が失敗したり批判されることで喜びを感じ、さらにアンチ行動にエネルギーを注ぐ原動力となります。

SNSの発展により、シャーデンフロイデが発揮される場が多くなり、アンチ行動が広がる要因ともなっています。特定のターゲットが一度批判の的にされると、アンチたちは連携してそのターゲットの一挙手一投足を監視し、批判の材料を探すようになります。このような行動の背後には、他者の不幸を共有し、共感し合うことで仲間意識を高める心理も働いているのです。

アドラー心理学とアンチ行動の深層

アドラー心理学の「承認欲求」と「自己効力感」の概念も、アンチ行動の理解に役立ちます。アドラーは「人は他者との関係を通じて自己価値を確認する」という考えを示していますが、アンチの多くは自身の承認欲求や自己効力感が満たされていないために、他者への否定的な評価を通じて自分の存在を確かめようとするケースが少なくありません。これは、日常生活での満たされない自己承認が、アンチ活動で疑似的に充足される構造とも言えます。

具体的には、アンチが自分の嫌悪対象について否定的な意見を共有することで、他者との共感や繋がりを感じ、自分自身の価値を再認識する手段として利用しています。この行動は一時的な充足感を得られるものの、持続的な満足には至らず、さらに強いアンチ行動を引き起こす原因にもなりがちです。

「推し」と「アンチ」のエネルギー比較

「推し」と「アンチ」は対照的な概念ですが、どちらもある種の「情熱」や「エネルギー」を注ぐ対象としての共通点があります。推しは対象への愛情や共感が原動力である一方で、アンチは否定的なエネルギーがその原動力です。このエネルギーの性質こそ異なるものの、いずれも強い情熱をもって対象に関わりたいという人間の欲求が根底にあると言えます。

推しが「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」のような現象を引き起こすのは、「ハロー効果(後光効果)」と呼ばれる心理的なバイアスの一種です。つまり、推しは相手の些細な欠点をも好意的に捉え、アンチは逆に相手の些細な言動をも嫌悪の対象とするのです。これにより、アンチは推しと同じく強烈なエネルギーを消費することになるのです。

視聴率至上主義のメディアがアンチ行動を煽るメカニズム

現代のメディアが視聴率依存であることは周知の事実ですが、この視聴率至上主義がいかにアンチ行動を加速させるかについても考察してみましょう。視聴率を上げるために、メディアは時としてセンセーショナルなタイトルや、わざと対立を煽るような内容を盛り込みます。視聴者が惹きつけられ、さらにその感情が増幅されるよう仕向けられているのです。

例えば、ある有名人が「失言」と捉えられる発言をしたとしましょう。メディアはこの発言を大きく取り上げ、誇張した表現で報道します。この報道によって視聴者が抱く「なんでこんなことを言うのか?」という不満や反感が大きくなり、SNS上でその発言についてアンチコメントが飛び交う結果を招きます。こうして、アンチの怒りをエンターテインメントとして提供するメディアは、アンチ行動をさらに増幅させる役割を果たしているのです。

アンチ行動とメディアの関係が生み出すサイクル

SNS時代の今、メディアが作り出した過激な内容が即座にSNSに共有され、さらに多くの人々の目に触れることで、「メディアで取り上げられたから真実だ」という信念を持たれるケースも増えています。そして、視聴率や閲覧数がまた新たなコンテンツを生む循環が出来上がります。

まとめと呼びかけ

以上のように、アンチ行動には複雑な心理的メカニズムが存在しており、自己投影やシャーデンフロイデ、承認欲求の欠如など、さまざまな要素が絡み合っています。これらの心理を理解することで、アンチ活動が自己や他者に与える影響を見直し、より健全な感情の処理を考えるきっかけになるでしょう。悪口を言わずにはいられない衝動を感じたとき、少し立ち止まって自分の内側に目を向け、エネルギーを注ぐ対象をポジティブなものへと変えることも一つの手段です。

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