老後のひとり暮らしがもたらす「ゴミ屋敷化」の危機
風呂場から始まるゴミ屋敷化の兆候
『老後ひとり暮らしの壁』(アスコム)の著者、山村秀炯さんは、ゴミ屋敷化の初期症状が風呂場などの水回りに現れると指摘しています。特にシャンプーやボディーソープのボトルには注意が必要です。
80代の女性、木原さん(仮名)は、過去に一度の離婚を経験し、その後は一人での生活を続けてきました。彼女は一般企業で定年まで勤め上げ、倹約家としても知られ、老後の資産運用も成功させて数千万円の預貯金を持っています。名古屋市内や近郊の新築分譲マンションを住み替えながら、ひとり暮らしを楽しんでいました。
しかし、年齢を重ねるにつれ、足腰が弱くなり、判断能力にも衰えが見え始めました。重い荷物やゴミを持つことが難しくなり、ゴミを捨てること自体が面倒になっていきます。自炊の機会が減り、コンビニやスーパーで買った弁当や総菜のゴミが増える一方となりました。こうして、きれいだったマンションがゴミで埋め尽くされていきました。
自立への過信が招く落とし穴
地域の民生委員や役所の方が定期的に見守りに来ていましたが、木原さんは「心配などしてほしくない!」と玄関口で揉めることもありました。長年のひとり暮らしで「なんでも自分でできる」と頑張ってしまったことが、かえって状況を悪化させたのでしょう。
部屋がゴミで埋もれていく現実を前に、木原さん自身も精神的に落ち込み、悪循環に陥ってしまいました。このタイミングで相談を受け、施設への入居をサポートしました。現在は施設で快適に過ごされています。
ゴミ屋敷化を防ぐための予防策
ゴミ屋敷化を防ぐためには、周囲のフォローが不可欠です。特に、風呂場やトイレといった水回りの清掃状況を定期的にチェックし、ゴミが溜まり始めたら早めに対処することが重要です。
また、未開封の定期購読雑誌やAmazonのダンボール箱が溜まる傾向がある場合、片付けの習慣を見直す必要があります。これらの傾向は、片付けられない状態が悪化する前兆です。
ゴミ屋敷の5段階レベルとその特徴
ゴミ屋敷は、ゴミの量や内容によって次の5段階にレベル分けされます。レベル1・2は黄色信号、レベル3以上は非常に危険な状態です。
レベル1.床が見えない
- 特徴: モノが散乱し、床が見えない状態です。
- 具体例:
- 1ヶ月以上掃除していない
- 日用品や書籍、着用済みの衣類が床を覆い尽くしている
- 臭いはしない
- 判断: 「ゴミ屋敷」と判断する人もいれば、「ゴミ屋敷予備軍」や「汚部屋」程度に捉える人もいます。
レベル2.寝る場所に困る
- 特徴: 足の踏み場もない状態で、寝る場所に困るほどゴミが散乱しています。
- 具体例:
- 場所によっては膝ほどの高さにまでゴミが積み上げられている
- 臭いはしない
- リスク: 近隣の人に迷惑をかけるほどではありませんが、転倒や火災時の延焼などのリスクが高い状態です。
レベル3.飲食物のゴミも放置
- 特徴: 飲食物の空き容器が放置され、ゴミ屋敷のレベルが高くなります。
- 具体例:
- 空のペットボトルや空き缶が放置
- コンビニ弁当などの空き容器をゴミに出していない
- 食べ終わったお菓子の袋もそのまま
- 影響: 飲食物のゴミが放置されていると、高確率でゴキブリやネズミが発生します。清潔面の悪化が目立ちます。
レベル4.悪臭がする
- 特徴: 悪臭を放つようになり、近隣住人にゴミ屋敷と認識され始めます。
- 具体例:
- 調理器具や食器も使ったまま放置
- ハエなどの昆虫類も大量発生
- 家に入ると悪臭を感じる
- 対応: 賃貸住宅であれば、家主や管理会社からゴミの撤去や現状の改善を求められるレベルです。
レベル5.健康被害が懸念される
- 特徴: 近隣に住む人にも悪影響を及ぼすゴミ屋敷で、居住者の健康被害も懸念されます。
- 具体例:
- 家の外にまで悪臭が漂う
- 壁や窓、床にカビが発生している
- 生活が困難
- 対応: 家の外にまでゴミが溢れかえっていれば、管理会社や自治体から早期改善を求められます。場合によっては、行政代執行によりゴミを強制撤去されることもあります。
結論
老後のひとり暮らしは、自立した生活を続けるためのチャレンジでもありますが、年齢に伴う体力や判断力の衰えを無視することはできません。周囲のサポートや適切な介入を受け入れることで、ゴミ屋敷化を防ぎ、快適な生活を維持することが可能です。